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川上りえ アーティストステートメント



私は、主に鉄を素材としながら、人間の知覚を超えた現象に着目し、万物の本質についての考察を投影した作品を制作しています。

私は、チャールズ&レイ・イームズの映像作品、「Powers of Ten」にある場面のように、人間の視覚を超えた拡大と縮小の段階で見えてくる物事に興味があります。私が美術をする目的は、客観性による価値観の開拓であり、作品では、そこへ導くための知覚を生み出す場作りを目指しています。

それを実践するために、ものごとの反応の連鎖、物質と非物質の関係、ミクロからマクロの相似性、個と総体の間に生じる価値観の歪み、宏大無辺の空間と時間といったテーマを切り口として、不可視の世界を可視化する試みにより作品展開をしています。手法は彫刻、インスタレーション、インタラクティブワーク、サイトスペシフィックワークなど、多岐に及びます。

鉄には素材として、あるいは文脈として、魅力的な側面があります。鋼材としては、加工性に優れ、様々な質感を表すことが出来ます。元素としての鉄は、地球の重量の3分の1を占め、中心核で溶けながら磁場を発生させ、酸素を体内に分配するヘモグロビンの構造の中心に元素単位で位置するなど、ミクロとマクロのレベルで生命の営みに最大限に関与し、その事実は、私が求める世界観の理論的、視覚的インスピレーションとなっています。
そのような経緯で、私は鉄を素材として好んで使用し、その背景にある文脈を作品のコンセプトに組み込んでいます。

これまでに実践している仕事としては、鉄板をたたく、曲げる、削るなど、身体の働きかけの痕跡を思考の化石として見立てるプロジェクト、人為を含めた万象の営みとして、安定を図るために振幅を繰り返す天秤の装置や、太古の時間を復元するように森の木々に統一した高さでチョークの色を施すことで水面を表現し、その中を歩き全身で鑑賞するサイトスペシフィックの作品、透かし彫りの金属板を岩に見立てて構成した立体の中で物質の透過を連想しながら鑑賞することが出来るインスタレーションの作品、土、石、鉄粉、炭など、大地に繋がる成分が、観察を促すように透明な樹脂の立体に混在している作品などがあります。

これらのプロジェクトでは、「言葉の解釈」ではなく「感覚による受容」を重視し、既存の価値観からの解放につながる場づくりを試みています。

 

 

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